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東京地方裁判所 昭和42年(借チ)2004号 決定 1967年10月18日

申立人

長谷川長吉

右代理人弁護士

四ツ田昭夫

相手方

石井好三郎

主文

申立人が相手方に対し金二一万三〇〇〇円を支払うことを条件として、申立人が別紙目録記載の借地権を東京都北区東十条四丁目一一番一六号大曾根滋に譲渡することを許可する。

理由

本件申立の要旨は、

「申立人は別紙目録記載の土地を相手方から賃借し、同目録記載の建物を所有しているが、これを東京都北区東十条四丁目一一番一六号大曾根滋に譲渡しようとするものである。申立人は昭和三一年中野村正雄とともに電気照明器具の製造販売及び板金加工等を目的とする有限会社共和製作所を設立し、本件建物は同会社がその工場として使用して来たもので、前記大曾根も右建物譲受後はその建物内で板金工業等を営むことになるのであり、かつ同人は十分の資力があり、人柄等の点でも格別の問題はない。それ故右野村が本件賃借権を譲受けても賃貸人に不利となる虞れはないというべきである。

よつて、右譲渡につき賃貸人の承諾に代わる許可の裁判を求める。」というのである。

まず、本件においては一応建物の所有権が問題となる。すなわち、申立人は、右建物は同人の単独所有に属すると主張するけれども、申立人及び申立外野村正雄の各陳述によると、本件土地は申立人が単独で賃借しているが、地上建物は登記簿上申立人と野村正雄の共有となつていることが認められ、野村は、右建物は登記簿の記載どおり両名の共有に属するというのに対し、申立人は自己の単独所有に属する旨述べ、両名の陳述は食い違つており、他に右建物が申立人の単独所有に属することについての確たる資料はなく、この点に関する申立人の主張については疑問が存するといわねばならない(もつとも、右野村及び申立人の各陳述によると、前記のような事情があるに拘らず野村は本件建物を大曾根に譲渡することについて承諾し、結局申立人において野村をも代理して大曾根との間に契約を結ぶ形をとり譲渡代金から本件の裁判に基き相手方に支払うことあるべき金額を控除した額を折半することで両者間に話合ができていることが認められ、野村は右の金額が受領できるならば、建物所有権に関する申立人の主張に異議はない旨述べているのであつて、前記建物所有権に関する問題はその譲渡について格別の障害になるものとも認められない)。

以上の事実に基いて考えるに、本件建物の譲渡は、申立人主張のようにその単独の所有権の移転でなく、申立人及び野村それぞれの持分の移転と見られる余地はあるにしても、これに伴い譲渡される借地権は申立人のみに属するのであるから、いずれにせよ申立人は、借地法第九条条の二第一項において申立権者として予定されている借地上の建物を譲渡しようとする賃借人に該当し、同人のみで右規定に基く許可申立をなしうる適格を有するものというべく、また前記建物所有権に関する点が本件申立の許否及び許可に伴う附随処分の内容に格別の影響を及ぼすことはないと解して妨げないと考えられる。

そこで進んで右賃借権の譲渡により賃貸人に不利となる虞があるかどうかについてみるに、本件で調べた資料によると、本件土地は準工業地域に属し、地上建物は従来申立人主張のとおりの工場として使用されていたものであるが、譲受人大曾根は板金加工業を営み、右建物譲受後は申立人ら所有時代と略同様の方法でこれを工場として使用するもので、本件譲渡により土地、建物の使用状況に特別の変更を来たすことはなく、また大曾根は堅実な営業をしており、資力もしくは人的信用の面で従前の賃借人たる申立人に劣るものではないことが認められる。以上の事実によると、本件賃借権の譲渡によつて賃貸人に不利となるような虞はないというべきである。

しかして、本件に顕われたその他の事情のすべてを考慮しても、本件賃借権の譲渡の許可を不相当とするような点は窺えないから、本件申立はこれを認容すべきである。

次に附随処分について検討するに、この場合の賃料の増額及び財産上の給付の点が考慮さるべきであると思われる。しかして、本件で調べた資料によると、申立人は相手方から本件土地を賃借するにあたり権利金一五万円を支払つており、本件賃借権及び建物の譲渡代金は計二七五万円であること、さらに賃貸借の残存期間は約八年、賃料は昭和四一年七月分以降一ケ月一四一六円(坪当り六〇円)であることが認められるが、右事実に加え本件土地の位置、環境その他本件に顕われた一切の事情を参酌し、かつ鑑定委員会の意見を徴し考量した結果、財産上の給付として申立人から相手方に二一万三〇〇〇円を支払わしめ、賃料についてはこの際増額はせず、前記の額のままとするのが相当と判断する。

よつて、借地法第九条の二第一項により、前記金員の支払を条件として本件賃借権譲渡を許可することとし、主文のとおり決定する。(安岡 満彦)

(別 紙)

目   録

(一)目的土地及び借地権

東京都北区豊島八丁目二〇番一

宅地一六七五・二〇平方メートル(五〇六坪七合五勺)のうち別紙図面表示の七八・〇一平方メートル(二三坪六合)

右土地を目的とし、賃貸事を相手方、賃借人を申立人とする昭和三〇年一一月末日頃成立の賃貸借契約に基く賃借権

(二)建物

右地上に存する(家屋番号同町二七三番一一号)

木造瓦葺二階建作業場 一棟

床面積 一階四六・二八平方メートル

二階四一・三二平方メートル

(登記簿上)木造瓦葺平家建作業場一棟

床面積  一四坪

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